目が覚めたら、知らない場所にいた。 ボロボロになったインパルスが横たわり、どうやらここが地球である事は目の前に広がる海でわかった。 曖昧な記憶をたどり、要約自分が戦闘中大気圏に突入してしまい、そのまま地球に落ちてしまった事を思い出す。 もう、終りだとおもったのだがどうやら俺は生きているらしい。 「どうせなら死んでしまえばよかったな・・・・」 そんな言葉をはいてしまう自分がいた。マユと母さん、父さんがいる場所に行けばよかったかもしれない。 あの時、自分も逝きそびれてしまったのだから。 そんな事を思いつつ動こうとした瞬間右足に激痛を感じた。 「っつ・・・・」 どうやら骨が折れているらしい。立てそうにもなかった。 体中がきしむように痛いし、怪我の度合いは思った異常に深い。 擦り傷もひどく、不様な姿だと思った。こんなところで残されたってどうせ死んでしまうのか。 動き様もないうえに、通信もとれないこの状態。周りに人が住んでいる気配もなく絶望感だけが胸をしめつけた。 このまま死ぬのか・・・・・・・・。 そう思った瞬間、レイの顔が頭に浮かんだ。 「レイ・・・・・・」 微かにその人の名前を呟く。恋人である彼を思うと苦しくなる。 今ごろどうしているだろうか。心配してるだろうか。 そんな事を思ってみるもののレイに会えるわけではない。 そう思った瞬間、何かがプツっときれとめどなく涙が流れた。 今になって、さっきまで自分が『死ねばよかった』なんて思ってしまった事を悔やんだ。 自分には大切な人がいるというのに。 「レイ・・・・っ」 会いたいよ・・・・・・・。声がききたい。肌を感じたい。 今まで当たり前だと思ってた事が、こんなにも大切でかけがえのない事だったなんて。 離れて初めてわかる自分にとってどれだけ大切なのかということが、今更になって襲いくる。 動く事も出来ない今、ただ俺はひたすら涙を流すことしかできなかった。 一方ミネルバでは、ひどく取り乱しているレイの姿があった。 「通信は!?シンは無事なんですか!?」 必死になってタリアにすがる姿は痛々しかった。とてもいつものレイからは想像がつかない姿。 冷静で、完璧な彼がここまで取り乱すのは初めて目にする事だった。 「まだ・・・・わからないわ」 「わからない!?これだけ探してもまだみつからないというのですか!?」 「レイ!落ち着いて!」 大きな声を発し興奮するレイをなだめようと、タリアは厳しい口調でレイに言う。 だが、レイはそれどころではなかった。 「私が探しに行きます!行かせて下さい!!!!」 そのレイの言葉を聞きタリアは立ち上がった。 「何を言ってるの!!!!あなた一人が行ってもしょうがないでしょ!!!」 「それでも、行かせて下さい!!無駄だって・・・そんな事はわかっている!だが・・・今は・・・今は・・・・!!!!!」 今は何かをしていなければ、頭がどうにかなりそうだ! そんな思いを胸にレイは強くはっきりとそう言った。 タリアはため息をつく。地球のどこに落ちたかもわからないというのに、それを探すと無茶をいうレイに半ばどうすればいいか困ってしまっていた。 莫大な範囲の地球をレイ一人が探すなんて、いつみつかるかわかったものではない。 考えればすぐにわかることを、あのレイが必死なって言っている事は、あり得ない事だった。 「艦長!!!」 取り乱しているレイをルナマリアがなんとか抑えようとしている時に、メイリンが叫んだ。 「インパルス・・・確認できました!」 そうして映像を流す。そこには無残な姿の傷ついたインパルスがあった。 一瞬の沈黙が起きる。だがすぐにタリアはイスに座りなおした。 「シンを助けるわよ!!ほら、みんな急いで準備して!」 「は、はい!」 そう言って、各々自分の持ち場についた。 レイはその場にへなへなと座り込む。そんなレイを必死に立たせようとする。 だが、力をなくした人間は思った以上に重く、なかなか支える事が出来ない。 「シンは・・・・シンは・・・生きているだろうか・・・・」 力なくそう呟いたレイにルナマリアは驚いた。 こんなにも弱弱しいレイにただ言葉をかけることもできない。 シンを思っている事が痛いくらいに伝わってくる。 だが、ルナマリアはバシっとレイの背中を叩くと厳しく言った。 「何いってんのよ!生きてるに決まってるでしょ!?あんたがそんな事言ってどうすんの!好きなら信じてあげるのが一番なんじゃないの!?」 涙まじりにルナマリアはそう叫ぶ。彼女もシンの事を心配しているのだ。 自分もシンの安否を不安に思っていた時に、力なくそう呟いたレイに思わず感情的になる。 インパルスの破損した映像からは、シンの安否も危うい状態だという事が伺えた。 そんな映像みたレイは大きなショックを隠せない。 だが、ルナマリアの言葉をききハッと我にかえる。 「そう・・・だな。すまない・・・・」 そう言ってなんとか自力で立ち上がると、自室にへとフラつきながらも戻っていった。 倒れこんだのは自分のベットの上ではなくシンのベットの上だった。 思い出してしまう、悲劇が頭の中を駆け巡る。 戦闘中に聞こえたシンの叫び声。 『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』 落ちていくインパルスの姿。 無我夢中で助けに行こうと降下したが、ルナマリアにとめられた。 消えていくシンに気が狂いそうになった。 『シーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!』 叫んだ声に応答は・・・・なかった。 助ける事ができなかった己の未熟さに、ただ悔しさだけが残る。 気がつけば、涙がレイの頬をつたっていた。 こんなにも愛しく思い涙を流す自分がいるなんて、レイ自身も知らなかった。 だが、今は祈るしかない。シンに再び触れる事ができることを。 朦朧とする意識の中、潮を掻き分ける音が聞こえてきた。 天からのお迎えか?そんな事すら考える。 もう、体はぴくりとも動く事は出来なくなっていた。出血が多かったらしい。 痛みも感覚がなくなってきてわからなくなっている。 俺・・・・もうダメかも・・・・・。 俺は静かに目を瞑った。波の音が心地よかった。 レイと2人で過ごした事とか、走馬灯のように思い出す。 うわ・・・・なんか本当これが死ぬ間際ってやつなのかな・・・ みょうな考えをおこしてしまうが、もう目を開ける気力もない。 だが、ふとレイの声が聞こえたような気がした。 最期にみれる幸せの幻覚かもしれない。笑顔で俺の名前を呼んでいるレイの姿がうかんだ。 「レ・・イ・・・・・」 力なく答える。奇麗な金髪が眩しく見える。 「ン・・・・シン!!!!!!!」 だが、ふと感じたのは抱きしめられる感触だった。 ふっと微かに目を開ける。小さな視界からレイの奇麗な顔がみえた。 その奇麗な目からは雫が流れている。 レイ・・・泣いてるのか? 俺はふっと笑うとそのまま真っ暗闇に落とされた。 「う・・・・・」 目が覚めるとベットの上だった。 どこだここは?ゆっくりと起き上がろうとした瞬間、いきなりぎゅっと抱きつかれた。 何がおこったのかよくわからなかったが、ふと懐かしい香がした。 ほっと力がぬける感覚がする。 「レイ・・・・?」 思った人物の名前を呼んだ。 するとゆっくりと抱きしめていた体を離される。 目の前には切ない表情をしているレイの顔だった。 「よかった・・・・・!」 再び抱きしめられる。今にも泣き出しそうだったレイに俺は思わずぎゅっと腕を回し、顔を胸にうめた。 途端に不安だった心が解き放たれた感じがし涙が溢れる。 「俺・・・もう・・・もうレイに会えないかと・・思った」 「そんな事・・・あるわけないだろ!!」 レイがぎゅっと強く抱きしめる。 近くに感じる鼓動がただ嬉しかった。 一人で途方にくれていた時、思いつくのはレイだけで。今まで近いと思っていたのに。 遠くに感じられて。ただ空しくて、悲しくて、ずっと怖かった。 だけど、今求めていた人はこんなに近くにいて、どこにも行かないように抱きしめてくれている。 それだけで十分だった。 「もうこれ以上心配をかけさせないでくれ・・・」 「うん・・・ごめんな」 どちらともなく口付けると、部屋のドアが開いた。 思わず、唇を慌てて離す。 現れたのはルナマリアだった。 「シン!目覚めたんだ!」 「うん、心配かけてごめん」 にっこりと笑うとルナマリアは瞳を潤ませた。 それに俺は驚き、どうしたものかとルナマリアをみる。 あんなに強気な女が瞳を潤ませるなんて想像が俺にはつかなかったからだ。 「ほんっとに・・・心配かけさせんじゃないわよ!」 「え・・あ・・・ごめんな」 「泣くな、シンはこうして無事なんだからな」 レイがそう言うとルナマリアはきっとレイをにらんだ。 「よくもまぁそんな事言えたもんね!シンがいない時一番うろたえてたくせにっ」 「え?」 レイが・・・・・? ルナマリアの言葉に俺は興味深々に反応する。 レイは咳払いを一つすると『そうだったか?』としらじらしく言った。 「大変だったんだから!シンが死んだら俺も死ぬ〜!って感じで、こっちもいっぱいいっぱいだっていうのにね」 「へぇ・・・・レイが?」 レイに視線をむけると、レイは目をそらしルナマリアに早く部屋からでていけと目で促しているのがわかった。 そんなレイの姿がおかしくて笑ってしまう。 「ありがとな!レイ」 「いや・・・・まぁ・・な」 照れているレイをみるのはこれが初めてでどこかおもしろい。 いつも俺より全然大人な感じで、俺がいつも振り回されてばっかりだったのが今は形勢逆転だ。 「俺がいないとレイはダメなんだな」 ふっと笑いながらそう言うと、レイは俺に視線をむけた。 だが、レイもくすっと微笑む。 「そうだ。お前がいないと生きていけない・・・・・」 ルナマリアがいる前でストレートにそう言われ、思わず俺が赤面してしまう。 まさかそんな言葉を言われるなんて思わなかった。 「あ〜あついあつい!邪魔者は消えるわね」 そう言ってルナマリアは部屋から出て行った。 「やっと2人になったな」 ずいっと近づいてくるレイに思わず顔を引いてしまう。 だが、レイは俺の顎を上にむかせ深く口付けた。 とろけそうな感覚に視界がぼやける。 「あ・・レイ」 「俺がどれだけ心配したか・・・体でわかってもらう」 「え!?でも俺・・・病人」 そう言って折れていた右足を指差す。 「・・・・・・・・・・」 レイは無言になり不満そうだ。だが、こんな状況ではできないものはできない。 大体、こんなときそんな事をしようとするほうが間違っている。 感動の再開もなえてしまうじゃないか。 「しょうがないな・・・・。でも治ったら覚悟しておけ」 「う・・・・・・・・」 その言葉にたじろぐが、もう一度俺達は口付けた。 お互い、大切に思う気持ちをぶつけあいながら。 「なぁ、レイ。俺こんなにもあんたの事好きだなんて知らなかったよ」 「俺もシンの事こんなに愛しているとは思わなかった」 「・・・・・レイ・・・好きだよ」 「わかってる」 end |
気がついたら甘くなってました・・・。なんか私が小説書くと甘くなっちゃうんですよね; 設定も結構無茶苦茶なんですが、『離れて気づくもの』っていうテーマで書きました。 で、レイはシンが絡むと普段の冷静な自分じゃなくて隠れた人間っぽい感情が表にでてしまうような感じが好きです。 シンは特別っていう感じで!それで結局ラブラブな2人になっちゃうんですけどね。(苦笑) 2004 12.27 Rinko |